静岡地方裁判所 昭和30年(行)9号 判決 1959年6月16日
原告 小沢藤作
被告 静岡県知事
補助参加人 沼津市固定資産評価審査委員会
主文
被告が昭和三十年七月十九日付で別紙(一)記載宅地の固定資産価格に関する補助参加人の審査決定に対する原告の訴願についてなした裁決中同記載(ホ)の宅地に関する部分及び訴外沼津市長が右宅地についてなした昭和三十年固定資産価格決定中金二万六百八十九円を越える部分を取消す。
原告のその余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用中参加により生じた部分はこれを十分し、その一を補助参加人、その余を原告の各負担とし、その余はこれを十分し、その一を被告、その余を原告の各負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「主文第一項記載の裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として「沼津市の昭和三十年度固定資産税課税台帳には別表(一)記載の宅地(現在(ハ)は三十九番の一、宅地三十九坪二合九勺、同番の二、宅地三十九坪一合六勺に、(ニ)は四十番の一、宅地八十一坪三合八勺、同番の三、宅地三十二坪七合六勺、同番の四、宅地二十四坪三合六勺にそれぞれ分筆)の価格は同記載の通り登録されたが、原告はその価格について不服があつたので、同年三月三十一日補助参加人に対しその審査を請求し、これに対する決定は同年四月二十日付でなされ、同月二十八日原告に通知された。原告はその決定に対し同年五月十九日被告に訴願し、同年七月二十二日被告から右訴願を棄却する旨の同月十九日付裁決書を受領したが、本件宅地の評価は著しく不当であり、これを支持した本件裁決は違法である。すなわち、本件宅地の位置、形状は別紙図面表示の通りであるが、本件価格の前年度価格に対する上昇率は別表(一)記載の通り七〇、九パーセントないし一五〇パーセントであり、いずれも急激に上昇している。ことに、(イ)の宅地の価格はこれに隣接する八幡町六番の宅地と同一の利用状況にありながら、これより坪当り千百円高額であり、また、土地の評価に当つては、その利用状況からみて一体をなしているものを一画地とすべきであるのに、沼津市長はこれを誤り、(ハ)の宅地の内現在の三十九番の二、(ニ)の宅地の内現在の四十番の一に該当する部分は当時から第三者に賃貸してある四十番の三、四、三十九番の一の各宅地に該当する部分とは区画されて、一括して原告の住宅敷地として使用され、その利用路線は第一三六号路線のみであるにもかゝわらず、(ニ)、(ハ)の各全体をそれぞれ一画地として評価したため、三十九番の一の宅地をこれと類似の同所三十八番の宅地の坪当り価格九千五百六十五円、四十番の三、四の宅地をこれと類似の隣地四十番の二の宅地の坪当り価格九千九円の割合で評価して(ハ)、(ニ)の宅地の価格から控除して算出した三十九番の二、四十番の一の宅地の平均坪当り価格七千百七十三円は同一の利用状況にある隣地四十一番の一の宅地の坪当り価格三千二百二十七円より三千九百四十六円、同所三十五番の一の宅地の坪当り価格四千二百十二円より二千九百六十一円高額となつており、第三者に賃貸してある(ホ)の宅地は、その利用路線は第一三六号路線のみであるのに、これと隣接する第三者所有、使用の第一五四号路線に面する同番の一の宅地と画地をなすものとして評価された結果、その坪当り価格五千百十四円はこれと同一の利用状況にある原告所有の同所四十一番の二の宅地の坪当り価格三千百八十二円より千九百三十二円(原告の主張に千九百二十八円とあるのは違算と認める)高額となつている。よつて、本件裁決の取消を求めるため、本訴に及ぶ」と陳述し、被告の主張に対し「本件宅地の属する準防火地区内の幅員六メートル以上の道路の長さの合計は四百七十一メートルである。第一三〇号路線は評価当時その約三百五十メートル西方、白銀町地内の連続道路が拡張工事中で、車馬は本路線を通行しなかつたから、二級幹線として評価すべきであり、その街灯は戦災により破損したままであり、街路樹も北側一カ所、南側六カ所が残存するだけで、他の十三カ所は戦災で焼失したままである。本路線は沼津駅から五百七十二メートル(二十八点)、至近バス停留所から百九十メール(十五点)、町方町から二百一メートル(影響距離範囲外)の距離にあり、市立第一小学校は商業地区にとつてはむしろ減点施設であつて、接近係数の対象とすべきではない。その家屋の疎密度は普通、平均階雇は一、三階である。第一三四号路線は最下等の商業地区にある、静岡銀行沼津支店を起点とし、市立第一小学校を終点とする単なる区画街路であり、その国鉄沼津駅までの距離は八百メートルである。第一三六号路線は下級住宅街にあり、その国鉄沼津駅までの距離は七百十メートルであり、当時本路線には接近係数の対象となるべきバス停留所は存在していなかつたものである。第一五四号路線は本件宅地の評価には関係がない。該路線に関する部分を除き、その余の被告主張事実は全部認める。従つて、第一三〇号路線の街路係数は四百四十点、接近係数は百四十三点、宅地係数は四百五十七点と評点するのが相当であり、右評点によればその路線価は百九点となる」と述べた。(立証省略)
被告指定代理人及び同補助参加人指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として「請求原因事実は全部認めるが、本件価格はいずれも自治庁長官の示した固定資産評価基準(乙第二号証の一ないし十二、以下評価基準という)に準じ、同所定の路線価方式により算出されたものであり、適正である。本件評価に関係のある路線は沼津市第一税区第一三〇号、第一三四号、第一三六号、第一五四号各路線であり、右各路線は同一の準防火地区(総面積一万千六百四十九坪、公共空地千五百十七坪、地区内の幅員六メートル以上の道路の長さの合計約八百十一メートル)に属し、ガス引込容易であり、その認定接近係数(第一三四号路線から国鉄沼津駅までの実際の距離は五百九十九メートル)、家屋疎密度、平均階層は別表(二)記載の通りである。第一三〇号路線は普通商業地区にある、幅員二十五メートルの一級幹線と認められる国道一号線(千五百八十四点)で、歩車道の区別あり(八十点)、街路樹、街灯の設備(二十点)があるから、その街路係数は計千六百八十四点と評点され、接近係数は計千四十七点であり、本路線が木造地区と準防火地区との境界をなすところから、防火保安係数が一、二五と算出された結果、宅地係数は七百七十点と評点され、その総評点は合計三千五百一点となるが、沼津市の最高価路線総評点九千五百七十八点の路線価が千点と定められたから、本路線の路線価は三百六十六点となる。第一三四号路線は町方町に通ずる幅員十二メートルの地区内交通を負担する連続性街路で、普通商業地区にあり、その街路係数は計八百二十五点と評点され、その接近係数は計千二百十六点であり、宅地係数は三百九十二点と評点されるから、その総評点は二千四百三十三点、路線価は二百五十四点となる。第一三六号路線は併用住宅地区にある幅員八メートルの区画街路であり、その街路係数は三百十点と評点され、接近係数は計六百八十点であり、宅地係数は百十九点と評点されるから、その総評点は千百九点、路線価は百十六点となる。第一五四号路線は普通商業地区にある、地区内交通を負担する、幅員二十メートルの連続性街路(九百三十五点)で歩車道の区別があり(八十点)、歩道は一部不完全ながら舖装され(四十点)、街路樹がある(二十点)から、その街路係数は計千七十五点と評点され、接近係数は計四百点であり、宅地係数は三百九十二点と評点されるから、その総評点は千八百六十七点、路線価は百九十四点となる。しかるに、(イ)、(ロ)の宅地は第一三〇号路線に面して一体として利用されている間口四間、奥行十二間の土地であるから、これを一括して評価すると、(イ)の宅地の評点数は六千四百七十五点となり、これに被告が評価の基準として前年度より三〇パーセント増額して定めた坪当り平均価額により算出された評点一点当り価額三十七円四十九銭を補正して定めた沼津市の評点一点当り価額三十七円七十銭を乗ずると、その価額は二十四万四千百七円となり、(ロ)の宅地の評点は九千四百三十三点、その価額は三十五万五千六百二十四円となる。(ハ)の宅地は第一三四号路線を正面路線、第一三六号路線を側方路線とする、間口五間六、奥行十四間の角地であるから、その評点は一万八千八百四十点、その価願は七十一万二百六十八円となる。(ニ)の宅地は第一三四号路線に面する不整形地であるが、これに隣地四十番の二、宅地二十七坪五合三勺を加え、間口十間七、奥行十五間の整形地として一括して評点した上、その評点三万五千六百七十六点から四十番の二の評点六千七百八十三点を控除した二万八千八百九十三点を(ニ)の宅地の評点とすると、その価額は百八万九千二百六十六円となる。(ホ)の宅地はいずれの路線にも面しない袋地であるので、これを第一五四号路線に面する隣地五十九番の一、宅地五十坪四合四勺と合算して間口五間三、奥行十三間の画地として一括して評点した上、その評点一万千三百二十九点から五十九番の一の評点九千九十九点を控除した二千二百三十点を(ホ)の宅地の評点とすると、その価額は八万四千七十一円となる。しかしながら、以上の数額をそのまま固定資産価格とするときは、その価額は前年度に比して急激に上昇することになるので、沼津市ではその上昇率の最高を一五〇パーセントとし、六一パーセント以上上昇するものについては一定の補正率によりこれを補正することゝし、本件宅地についても補正率によりその価額を補正した結果、原告主張のような価格となつたものであり、(イ)の宅地と隣地六番の宅地との坪当り価格の相違は、評価基準による両地の坪当り評価は同一になつたが、その上昇率をいずれも前年度の価格の一五〇パーセントにとどめたところろ、六番の宅地の昭和三十年度価格は三十八万六千百円、前年度価格は、十五万四千四百四十円で、両地の前年度坪当り価格が相違していたため、発生したものである。仮に、本件宅地の評価の際評価基準の適用、評価資料の認定、評価について誤りがあつたとしても、その価格は通常の取引価格以下であるから、本評価決定は適法である」と述べた。(立証省略)
理由
本訴請求原因である原告主張事実は全部当事者間に争がない。ところで、地方税法にいう固定資産の価格、すなわちその適正な時価とは本来その通常の取引価格を指すものと解すべきであるが、評価は常に公平になさなければならないから、評価の基準として示される知事の坪当り平均価格が課税政策上必ずしも通常の取引価格の平均と一致しない現在においては、決定された価格が通常の取引価格を著しく越える場合はもちろん、これを越えない場合でも、課税政策上その他の正当の理由なしに、他とはなはだしく均衡を欠く場合には、その価格は適正でなく、その決定は違法となるものというべく、価格が前年度のそれより著しく上昇している場合でも、それが通常の取引価格以下であり、他との均衡をはなはだしく欠くことがなければ、違法とはならないものと解するのが相当である。しかるに、鑑定人堀内則男の鑑定の結果、検証の結果(第一、二回)によれば、本件宅地の昭和三十年当時における通常の取引価格は、(イ)(ロ)が合計二百万八千六百円、(ハ)が二百三十五万三千五百円、(ニ)が三百三十二万四千円、(ホ)が十四万三千三百七十円であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はないから、本件価格がいずれも通常の取引価格以下であることは明白である。よつて、本件価格が他の宅地の価格と著しく均衡を欠いているか否かについて審理する。(ホ)の宅地の坪当り価格五千百十四円はこれと利用状況を同じくする隣地四十一番の二の宅地の坪当り価格三千百八十二円の約一、六倍となつているが、被告は、右両地の価格に差が生じた理由としては、(ホ)の宅地をこれと隣接する五十九番の一の宅地と画地をなすものとして評価したこと以外になんら主張も立証もしていないけれども、成立に争のない乙第二号証の三によれば、評価基準にいう画地とは利用状況等からみて一体をなしているものと認められる一画の土地を指すことは明らかであり、(ホ)の宅地と五十九番の一の宅地とは所有者も、使用者も異なり、全くその利用状況を異にし、(ホ)の宅地の利用路線は第一三六号路線のみであることが前記検証の結果(第一回)により明らかであるから、これを第一五四号路線に画する五十九番の一の宅地と画地をなすものとしてなした評価は失当であり、これが両地の坪当り価格に差を与えることの正当な理由となり得ないことは明白であるから、(ホ)の宅地に関する沼津市長の価格決定は違法というべく、その価格は第一三六号路線により評価したものと認められる四十一番の二のそれと同一の割合の五万六百八十九円と定めるのが相当である。次に、原告は、(ハ)の宅地の内現在の三十九番の二、(ニ)の宅地の内現在の四十番の一にそれぞれ該当する部分は評価当時両地の他の部分とは全く利用状況を異にし、一体として原告の住宅の敷地として使用され、第一三六号路線のみを利用路線としていたのに、(ハ)、(ニ)をそれぞれ一体として評価したため、利用状況が同一である四十一番の一の宅地と価格の割合に著しい差が生じた旨主張するけれども、一筆の土地を利用状況に従つて分割して評価することは評価すべき土地の実状の調査、坪数の測定その他評価事務上多大の困難と手数とを要することは明らかであり、これを分割して評価すべきことを求めることは妥当でなく、土地は原則として一筆ごとに評価し、これが合して一体として利用されているような場合にはこれを一画地として一括して評価すべきものと解するのが相当であるから、右両地をいずれも分割しないでそれぞれ一体として評価したことはやむを得ないものというべく、両地の各一体としての評価が他と著しく均衡を欠くことについては主張も立証もないから、右両地に関する原告の請求は失当である。また、原告は、(イ)の宅地はこれと隣接し、利用状況が全く同一である六番の宅地と評価の割合を異にするのは不当である旨主張するけれども、沼津市長が昭和三十年度固定資産価格の決定にあたり、各価格が前年度より著しく上昇することを避けるため、路線価方式により算出された原評価額に一定の補正率を適用してこれを補正し、その最高上昇率を一五〇パーセントとしたこと、六番の宅地の昭和三十年度、前年度価格が被告主張の通りであることは当事者間に争なく、両地の昭和三十年度価格がいずれも前年度価格より一五〇パーセント上昇していることは計数上明らかであるから、沼津市長が補正率の適用により両地の価格を前年度価格の一五〇パーセント上昇にとどめたところ、両地の前年度坪当り価格が異つていたため、原告主張のような両地の価格の差が生じたことは明白であるが、価格の急激な上昇を避けるため、その上昇を一定の率にとどめることは課税政策上必ずしも不当な処置とは言い得ないから、両地の坪当り価格に差が生じたことには正当な理由があるものというべく、(イ)の宅地とこれと一体として利用されている(ロ)の宅地の坪当り価格に差があることも右同様の理由によるものと認められるから、(イ)(ロ)の宅地に関する原告の請求も失当である。よつて、原告の請求は本件裁決中(ホ)の宅地に関する部分についてのみ理由があるから、これを認容し、該部分及び右宅地についてなした沼津市長の昭和三十年度固定資産価格決定中五万六百八十九円を越える部分を取消し、その余は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第二十二条、第九十四条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 大島斐雄 田嶋重徳 浜秀和)
(別表省略)